PCC 本多喜久雄

「アイデア」に対する認識が変化した

桑畑
前までは、クリエイティブな話をするときに「何かすごいアイデアを提供しなきゃ」とか「相手を驚かせなきゃ」とか、必ずそういうのがありました。その気持ちはクリエイターとしてメチャクチャ大事なんだけど、それが行き過ぎると「自分を認めて欲しい」というエゴイズムにいつの間にかすり替わっちゃうのが怖いところです。
今ももちろんアイデアをアピールしたい気持ちはありますが、最近はアイデアを何も準備していなくても大丈夫です

本多
ははははは。なるほど。ないときはどうなるんですか?

桑畑
ないときは相手に話していただきます。逆に自分がアイデアを出せなかったということは、相手のことを十分に聞けてないときだなと。なのでよく聞こうと。「プロジェクトが遅れるリスクもありますが、このまま進めると本当に私たちが欲しい成果は出せないので、話をきちっと聞かせてください」とお願いします。

本多
なるほど、いいね。アイデアが出ないのは、自分が聞けてないからということ?

桑畑
はい。自分だけで創ったものはただ自分がやりたいことですから、だいたい相手のやりたいこととズレている。そしてそんな中でプレゼンすればするほど、ズレは広がります。

本多
なるほど~。以前よりも楽になったという体験ありますか?

桑畑
プレゼンテーションとか打ち合わせに気合いが入ることはあっても、緊張して頭が真っ白になったりパニックになることはないです。

本多
おお~、なるほど。素晴らしいね。相互的になっているって感じ?

桑畑
はい。自分のアイデアを主張するのが提案書なんじゃなくて、相手の言ったことをまとめてわかりやすくするのが提案書だと最近は思っていますから。

本多
ほお~ 違いますね。
さっき言ったことを繰り替えしになるけど、相手の言っていることが十分に掴めたらアイデアは出てくるものなの?

桑畑
というよりかは、アイデアを出そうともしていない感覚すらあります。アイデアを出そうと言うよりどう相手の想いを代弁するか、です。

本多
なるほど。

桑畑
相手の言ったことをそのままわかりやすく、まず自分がわかるように言語化、数値化、図解化すること。
相手も専門用語使ったり、業界の専門の話をされるとわからない場合もありますが、「それってこうなんですか?」と聞いて、自身が理解できたら、その理解できた瞬間のポイントも提案に盛り込むことが重要です。
いわば翻訳している気持ちです。クライアントが訴求したい意図を、ターゲットユーザーに対してわかるようにしてまとめる。
もう、その時点で100点だから、あとは自分のアイデアを加えるか加えないかはオプションに近い選択になります。自分のアイデアを加えることによってさらに加点できるのであれば加えればいいですし、逆に自分のアイデアを加えることによって提案書の意図がぶれそうなら加えない方が良いでしょう。

本多
なるほど。それは表現の提案になっているということなんですか?

桑畑
はい。クライアントが一番欲しいのはクライアントが言っていることが目に見えて形になっていくことなんですね。それができればだんだんその影響や成果も描けるようになる。

相手よりも相手のことを理解していなければデザインはできない

本多
そうすると、他の人も同じようなこと言うかもしれないなと思って聞いていて、タケルの” 聞く”は他の人とどう違うの?

桑畑
執着がすごいんじゃないかなって。しつこい。

本多
ははははは。どんな?

桑畑
自分がまず知りたいとか、自分が興味がある、自分が知らないと気がすまないとか、しつこいんだと思います。「もうそろそろ次の話題いこうよ」というところで、ずっと聞き続けてしまうから。

本多
ほお~、なるほど。どんな執着なの?何に執着してるの?

桑畑
相手の話に対して、何より自分が感動してみたいとか、どれだけ凄いことか実体験してみたいと欲求です。

本多
なるほど。実体験してみたい。

桑畑
それを自分がわかればグラフィックデザインを通して「翻訳」ができます。だからこそまず、自分が知りたいと思っています。自分が「素材の魅力を知ることができた」という体験がないと、やっぱり手が止まってしまいます。そうなると小手先のテクニックや、パターンから持ってくるデザインで技術的なところから入っってしまいます。こういうときは大体しくじりますね。相手の意図を汲むよりも技術の実験欲求が先にくるわけですから。

本多
もしあったら教えてほしいんだけど、以前よりも自分の「相手を理解している」体験のレベルの深さみたいなものは変わりました?

桑畑
はい。変わっていると思います。
案件が終わったときには、相手の事業のことかなり知っていますから、ある角度から見たらクライアントの社員はもちろん相手の経営者より理解している分野も出てきます。「理解」というより「共感」の方が適切かもしれません

本多
なるほど。いいね。

桑畑
クライアントが何が恐れていて、何がしたくて、どんなことに喜びを感じるのか、その人以上に雄弁に語れる状態になったらいいデザインできますし、最近はその割合が高くなっています。
自分のことを講演するのはいまだに難しさを感じますが、クライアントのことを講演するのであれば、結構話せる自信があります。

本多
おお~ すごい。今ちょっと聞こえたんだけど、クライアント「企業」ではなく「担当者」についての理解が以前よりも深くなったという体験はありますか?

桑畑
本来はお酒の席でポロッっと話すようなことを、アルコールを入れずに商談で聞けるようになった感じはあります。

本多
いいね!たとえば?

桑畑
ご家族や趣味のこと、もしくは異性関係や下ネタのような話の中に、その人の本気でやりたいことや思想が掴めることが多いです。それを本来は「ノミュニケーション」でできればいいのですが・・・僕の場合下戸だし、最初の商談で関係が築けなければ「ノミュニケーション」にも繋がらないでしょう。

本多
素晴らしい

桑畑
それこそ好きなブランドや着ている服装、タバコの銘柄や、腕時計、使っているPCから好みや大切にしていることがわかったりします。それはデザインをおこなう上で重要な「素材」になります。